マイ・ヒーロー

 フィリップ・マーロウより
 長谷川平蔵より
 フツーに
 デントン市警のこの人が好き。

 いくら自分のことが好きになれなくても、誰か他の人になりたいと思ったことは(ほとんど)ないけど、このフロスト警部には憧れます。
 デントン市はロンドンから70マイル離れた、薄汚れたケツの穴みたいにありふれた地方都市ということになっている。フロスト警部はこの町の守り神というか、町そのもののように描かれている。彼は不眠不休で町の至る所に咥えタバコで遍く現れる。何の力もなく、粗野で下品で、優しい。フロスト警部が徘徊するデントン市はいつも冬だ。
たぶんフロスト警部が死んだら町も死ぬ。

「 デントン警察署の日曜日は、ほかの曜日となんの変わりもなかった。日曜日にも人々は酒を食らい、酔っ払ってパブの窓ガラスを叩き割る。夫と妻は諍いを起こして幸福な家庭を崩壊させ、住宅地の住人たちは近所の家のテレビの音がうるさいと苦情の電話をかけまくる。故障しないと保証つきの警報装置はわけもなく鳴りだし、生命知らずのスピード狂どもは前夜のささやかな事故の後に強制的に加入させられた保険の潤沢な保障を後ろ盾に、大威張りで市の通りを暴走する。強盗は目的の家に押し入り、ひったくりは老女を襲い……そんなわけで、警察署の日曜日は、ほかの曜日となんの変わりもなかった。」

 フロストシリーズの第1作『クリスマスのフロスト』はだいだいこんな風に始まる。
 面白そうでしょ?

 むかし読んだル・クレジオのなんとかいう短編にモンド(世界)という名の少年が出てくる作品があった。なんてことはない、モンド(世界)という名前の海ばかり見ている少年がいた。しばらくその小さな港町にいて、いつの間にかいなくなった。というだけの、だけど印象的な作品だった。モンドはひょっとしてドーバー海峡を渡ってロンドンから70マイルの小さな町に行き着いたのでは?と俺は勝手に思う。どういうわけかそこが居心地良くなって、うっかり地元警察の警部になんかなってしまったのでは?なんて俺は勝手に思って楽しくなるのです。

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Posted by aozame