『1999年のサーフトリップ』第10章

<コオロギのための音楽>

この文章は2009年の春先に書いた。その春わたしは臍の奥の管に膿が湧くという珍妙な事態に見舞われて1週間ほど外科に入院した。その後更に1週間の自宅療養を医者に命ぜられた。そして自宅療養期間の内の4日間をこの作文に費やした。短い話だから文章の書ける人なら半日もあれば完成させられるだろう。わたしの場合そうはいかなかった。しかも4日の内の2日間は寝てない。話は遅々として進まなかった。4日の間、山の中の誰もいない湖で釣りをしているような気分だった。わたしが考えていたのは、果たしてこの話の湖で魚は釣れるのか?ということだった。いや、そもそもこの湖に魚はいるのか?
どうにか話を終わらせたのは明け方で、わたしはちっとも眠たくなかった。十二時間何も食べていなかったのに腹も減ってなかった。わたしはそのままサーフボードと水を車に積んで海に出かけた。雲ひとつ無かった。その日の海は異様なくらい綺麗だった。風は無く、水面も空気も遠くまでツルツルと光っていた。波も良かった。でも雑魚波がまったくないのにセット間隔が長すぎて上手いサーファーが波を全部さらっていった。わたしは後ろの方で2時間ほどパチャパチャやってから、それでもいい気分で引き上げた。昼前には家に戻り、ビールを飲んで寝た。
その後この文章をキャプテン・メモハブ他数人に読ませたが反応はどれも芳しくなかった。

今回この話を引っ張り出してきたのは、その時の美しい空に似た青空の映像が偶然撮れたのが理由のひとつだ。今年の台風6号が上陸する2日前の空だ。6号がやってくる数日前からここいらの空気は不気味なほど澄み渡っていた。大きな台風が来る前というのはそんなことがある。
映像は30分弱あった。もっと別の朗読を映像に載っけるつもりでいたが、適当な長さの作品が見当たらなかった。そこでこの話のことを思い出した。元々短い話だったがそれでも30分で収まりそうになかったので4分の1はカットして前後の辻褄が合うようにした。結末を少し変えて、登場人物の名前を変えた。文章にタイトルを付けた。冒頭の曲はsmashing pumpkinsのライブアルバムに入っている「sinpony」で、最後の方のはÓlafur Arnaldsのライブの1曲目の最初の1分。ギターはわたしが弾いた。機材はキャプテン・メモハブの部屋に転がっていたGibson Les Paul Studio。アンプは昔の知り合いに借りたままになっているvox mini。録音は携帯電話のヴォイスメモを使った。音源の編集はaudacity。動画はMicrosoft clipchampでやった。これは春に作った秋の話で、映像は36℃の夏。今は冬。どうでもいいことをもうひとつ言うと、青空が綺麗だったのに映像を白黒にしたのは、メタリカのトロント公演のオープニング映像が白黒で、そのトロントの風景がかっこよかったからである。

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Posted by aozame