福岡空港

2022年6月22日

 福岡空港というのは美しい飛行場である。
 ターミナルや土産物屋は別に大したことない。風景や佇まいが美しい。世界に冠する、と云ってしまってもいいと思う。なんてったって潤いがある。僕の知る限り、世界中どこへ行ったって空港に「潤い」なんてものはありゃしないのである。なぜなら空港にそんなものは必要ないから。機能性と安全性を考えるとどうしたって空港というのは殺風景にならざるを得ないのだと思う。従って、美しい福岡空港は機能的でも安全でもない。ウィキペイディアの福岡空港のページは実にスリリングで面白い。ちゃんとした歴史があり、問題点は多くエピソードは多岐に渡る。ちょっとした読み物になってる。ウィキには載ってないけど、1966年のビートルズ来日時の板付空港を巡る鮎川誠のエピソードなんかもとても好きです。

 僕は2011年から17年まで福岡空港の貨物ターミナルで働いた。キッつい仕事で、給料は安かった。偉い連中は、こんな奴らが上にいたらそりゃいくら半沢直樹が頑張ったって航空会社潰れるよと納得できるような単なるクズだった。でも現場の若い奴らはちょっと他では見たことのないような独特の雰囲気を持ってたな。優しいと云うかなんと云うか、やることが多くて暇が無いからか人の悪口を云わない。年上だからといって敬うわけでなく、仕事ができないオジさんだからといってバカにするわけでもない。人に構うわけでもなく無視するわけでもない。素朴な働き者。決してバカではなく手先が器用で適当にズルい。そしてとんでもなくタフだった。空港で働く若者たちにはどうも飛行機に近づけば近づくほどステイタスが高い、という不文律がある。一番偉いのが機長。次がCA。機体を誘導するマーシャル。機体を引くトーイング。貨物を積み込む搭載スタッフ。我々のようにターミナルで貨物の積みつけのみをするスタッフは最下層ということになる。機長とCAを除けば給料もそんなに変わらんのに実にバカバカしいヒエラルキーだが、同僚たちの、若さに似つかわしくないあの諦念を湛えた独特の優しさは、そんな不文律に押し潰されたプライドの複雑な表現のなせる技だったような気もするし、いや、そうでもないかとも考えられるのである。彼らと働くのはなかなか楽しかった。

 太陽が東の宝満連山から昇り、脊振山系の右っ側の玄界灘に沈む。日が沈むと夜光虫のような青い誘導灯が黒い滑走路に浮かぶ。夜明けも夕暮れも真夜中も福岡空港は美しい飛行場である。

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Posted by aozame