本当のハゲの話をしよう

  年末久しぶりに本の整理をしました。
 1日目、「あ」から順に埃払ったり外の空気を吸わせたりしているとすぐに「い」のコーナーで故伊丹十三に捕まった。『小説より奇なり』と云うのは、終戦後に民営化されて初めて「平民の子を採った」時分の学習院のホモ話とか所々面白い箇所もあるんですがね。概ね昭和の週刊誌の雑記を集めたようなふざけた内容で、今じゃこれは出版されないな。
 それにしても、この本には出版当時は文化人と呼ばれていたような人がたくさん出てくる。そしてその半分くらいはわたしの知らない有名人である。わたしが知らないということは、控え目に云っても、団塊ジュニア世代の半分は知らないだろうし、ましてや若い人たちにはまったく馴染ない面子に違いない。立原正秋(作家)、高野耀子(ピアニスト)、臼田素娥(料理研究家)、三島雅夫(俳優)、藤原義江(声楽家)、田辺茂一(紀伊國屋書店創業者)、今東光(僧侶、小説家、政治家)。知ってます?萩昌弘は映画評論家。輪島博は横綱。輪島は知ってるけど博という名前は知らなかった。羽仁五郎は社会主義者で参議院議員で映画監督の羽仁進のお父さん。河原崎長十郎は劇団「前進座」を創設した歌舞伎役者で息子は三人とも俳優。河原崎長一郎、河原崎次郎、河原崎健三。ピンとこないでしょうが三人ともきっと皆さん知ってます。姪が岩下志麻。石立鉄男と吉村実子は夫婦で(1998年離婚)、吉村実子は芳村真理の妹。ちなみに、伊丹十三のお父さんは映画監督の伊丹万作で、長男は俳優の池内万作、次男は俳優の池内万平。嫁さんは宮本信子。大江健三郎は義理の弟。だからなんだよって?いや、この本読んでて昭和48年はその程度に昔なんだってのと自分たちがどっから繋がって2021年に居るのかってのが少しわかるような気がしただけです。

 ところで、この本の白眉は延々と続く文豪やら著名人たちのハゲ話である。わたしもハゲのハシくれなので読み耽ってしまった。ここまでハゲについて、ハゲを活字化した人っていないんじゃないだろうか。カツラ業界の業界紙なんてのはひょっとしたらあるのかもしれないけれど。しかし残念ながら参考になるような意見はなかったと云うのが正直な感想ですな。これだけ錚々たる顔ぶれのハゲに話を訊けたのなら、新たなハゲに対する考え方やアプローチが誰かの口から繰り出されてもいいようなものですが、要は気にする人もいれば気にしない人もいると云うだけのリポートでした。文豪なんてのは意外と普通の人たちなのかもしれません。いや、文豪たちは、いやいや、世のマトモなオッさんたちはハゲ問題なんかに真剣にかかずらっている暇なんかないのでしょう、実際。気にはなるけどしょうがないじゃん。抜けるし。それで死ぬわけじゃないし。
 しかしわたしはハゲを見ぬふりするのでなく、ただ自虐的に笑い飛ばすのでもなく、ましてや髪の毛を植えたり載っけたりするのでもなく、ハゲをアウフヘ~べんせねばならないと常々考えてるハゲの一人である。なんのことはない。ハゲを積極的に肯定すればいい。
「おっ!オレもやっとハゲてきたじゃん。いい年こいて髪の毛フサフサなんてみっともないと思ってたんだよね」とか「若いのに立派なハゲですな、自分」とか云って、そこからファッションのトータルコーディネートを始めたら世界は少し変わるんじゃないか、と思うのである。
 かつて髪型には思想がありました。
 ちょんまげは大人の印であったし、「ロン毛」に格下げになる前の「長髪」は反逆のメッセージだった。ジミー・ペイジのみっともないむさ苦しい「ロン毛」がどうしようもなくかっこいい「長髪」なのはそのせいだ。ビジュアルの印象という上澄みだけじゃない。それをすることの意味と覚悟を評価し、また脅威とする共通認識がありました。ならばハゲに込められる思想性ってなんでしょう。時の流れを乗りこなす洒脱な心?死を受け入れる強い意志?それとも、こんな世の中で「かっこいい」ってことにそんなに意味あんの?という問題提起?なんかいまいちだな。これは一人でチマチマ考えていてもあんまり意味ないんで、他のハゲ仲間にも意見が聞きたいところです。

 去年はあっという間に過ぎました。満足に外にも出られず、気がついたら世界的なハゲのカリスマのショーンが亡くなったりしていて、他にも勝手に知り合いみたいに親しく感じていた人々がたくさん死んだ一年だった気がします。暮れにBSの『キャッチ!世界のトップニュース』で、時々リポーターとして出てくるマイケルというアメリカ人が云っていた言葉が印象的でした。

「わたしたちはいま世界史的な出来事の渦中にいます。2020年というのは50年後、あるいは100年後もあの時はこうだったと世界で語り継がれるような年となるでしょう。皆さん大変ですが頑張って乗り切りましょう」

 いいこと云うなあ〜。確かに2020年はわれわれの子供たちが老人になってもあの時はこうだった、なんて歴史的に大きなスパンで語られるような特別な年になるのでしょうね。われわれオジサンたちには2020年を懐かしむ暇が果たしてあるかな、とも思います。コロナの後にやってくる世界にホンロ〜されながら死んで行くんじゃないかな、と。しかし、時を戻そうとするのはやめよう。それも人生だから。きっとそれも「悪くはないだろう」。

「避けることができないものは、抱擁してしまわなければならない。」
ーウィリアム・シェイクスピア

 

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Posted by aozame